今回も引き続き「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」について取り上げます。
当該ガイドラインは、令和元年と令和2年の建設業法改正を踏まえ、令和2年10月1日より改定内容が適用されています。
1.元請業者の役割と責任
元請業者は、請け負った工事全般について、下請業者よりも広い責任や権限を持っています。
そのため下請業者の体質や体制の改善について、元請業者が相応の役割を分担することが求められています。
このような観点から、元請業者は請け負った建設工事におけるすべての下請企業に対して、適正な契約の締結、適正な施工体制の確立、雇用・労働条件の改善、福祉の充実等について指導・助言その他の援助を行うことを期待されています。特に社会保険については、加入を徹底することにより、技能労働者の雇用環境の改善や不良不適格業者の排除に取り組むことが求められています。そのため元請業者は下請業者に対する指導等の取組みを講じなければなりません。
2.協力会社を通じた指導等
元請業者の協力会社に対しては、関係が長期的になるため指導も長期的に行うようにします。本ガイドラインでは具体的な取組みが紹介されていますので、その一部を下記に紹介します。
・ 協力会社の社会保険加入状況について定期に把握を行うこと。
・ 協力会社を通じた社会保険の周知啓発や加入勧奨を行うこと。
・ 社会保険の未加入企業が二次や三次等の下請企業に多くみられる現状にかんがみ、協力会社から再下請企業に対してもこれらの取組みを行うよう指導すること。
3.下請業者選定時の確認・指導等
元請業者は下請業者の選定時、法令上の義務があるにもかかわらず適切に社会保険に加入しない建設業者は社会保険に関する法令を遵守しない不良不適格業者という判断をするようにします。
そのためにも、国土交通省は、加入情報の真正性が厳正に担保されている建設キャリアアップシステムに登録している建設業者を選定することを推奨しています。(国土交通省の建設キャリアアップシステムの普及を進めたいという狙いもうかがえますが・・・)
そして、下請契約に先立って、選定の候補となる建設業者については、社会保険の加入状況を確認し、適用除外でないにもかかわらず未加入である場合には、早期に加入手続を進めるよう指導を行います。そもそも契約にあたり、最初から適切な保険に加入している建設業者を選定するようにすべきだと考えます。
4.再下請負通知書を活用した確認・指導等
施工体制台帳の作成及び備付け又は写しの提出が義務付けられる建設工事において、再下請負される場合には、発注者から直接建設工事を請け負った元請負人に対して下請負人から再下請負通知書が提出されることとなっています。(建設業法施行規則第14条の3)そして再下請負通知書には、健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の加入状況に関する事項を記載することとされているため、発注者から直接建設工事を請け負った元請負人は、再下請負通知書を活用して下請負人の社会保険の加入状況を確認することが可能です。
このため、元請業者は、再下請負通知書の「健康保険等の加入状況」欄を確認することで、下請業者が社会保険に加入していることを確認しなければなりません。また確認の結果、未加入の下請業者がある場合委は、3.に記載の指導を行います。
5.作業員名簿を活用した確認・指導等
令和元年度の建設業法等の一部改正により、実質的に作業員名簿の作成が義務化されました。作業員名簿は、各作業員の加入している健康保険、年金保険及び雇用保険の加入状況に関する事項を記載することされています。
この作業員名簿を活用すれば、工事現場で働く建設労働者について保険加入状況を把握することが可能なため、元請業者は、新規入場者の受け入れの際には、建設業に従事する作業員について作業員名簿の社会保険欄を確認することとなります。
確認の結果、空欄部分がある作業員はもちろんのこと、法人に所属する作業員が健康保険欄に「国民健康保険」や年金保険欄に「国民年金」と記載されている者がいる場合、個人事業主で5人以上の作業員を雇っているのに作業員名簿において健康保険欄に「国民健康保険」や年金保険欄に「国民年金」と記載されている作業員がいる場合には、その下請業者に対し、作業員を適切な保険に加入させるよう指導します。
作業員の保険加入状況の確認は、建設キャリアアップシステムの登録がある者については同システムの閲覧画面等において確認を行い、登録が無い場合には下請業者に対し、健康保険証のコピー、標準報酬決定通知書等関係資料のコピーや雇用保険被保険者証のコピー等を提示させるようにします。
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行政書士法人名南経営(愛知県名古屋市)の所属行政書士。建設業許可担当。高度な法的知識、行政との綿密な調整が求められる一般的に難易度の高いと言われる許認可申請の対応を得意としている。建設業者からの信頼も厚く、建設業者の顧問や、建設業者の社内研修も多数対応している。