今回も引き続き「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」について取り上げます。
当該ガイドラインは、令和元年と令和2年の建設業法改正を踏まえ、令和2年10月1日より改定内容が適用されています。
1.雇用する労働者に係る法定福利費の適正な確保
建設労働者の社会保険への加入の促進を図るためには、建設労働者を直接雇用する下請業者が「法定福利費」を適切に確保する必要があります。ちなみに「法定福利費」とは、健康保険法、労働基準法、厚生年金保険法などのさまざまな法律・法令によって定められた「事業者に負担が義務付けられている福利厚生の費用」のことです。
建設業者は、建設業法第20条第1項において、建設工事の経費の内訳を明らかにして見積りを行うよう努めなければならないと規定されています。そのため、下請業者は自ら負担しなければならない法定福利費を適正に見積り、法定福利費相当額の内訳を明示した見積書を元請業者に提出し、雇用する建設労働者が社会保険に加入するために必要な法定福利費を確保するようにします。ただし実際のところ、建設業法第20条第1項は努力義務のため、見積書に法定福利費を明示して見積りを行っている業者は少ないように感じます。
2.再下請負に係る適正な法定福利費の確保
下請業者が請け負った建設工事を他の建設業者に再下請負させた場合には、当該下請企業は、再下請負人の法定福利費を適正に確保する必要があり、法定福利費相当額の内訳を明示した見積書を提出するよう再下請負人に働きかけるようにします。またあわせて、提出された見積書を尊重して、再下請負契約を締結しなければなりません。
社会保険の保険料は、建設業者が義務的に負担しなければならない経費であり、建設業法第19条の3に規定する「通常必要と認められる原価」に含まれるものです。再下請負人が自ら負担しなければならない法定福利費を適正に見積り、提出する見積書にそれを正しく明示できるよう、見積条件の提示の際には、適正な法定福利費の内訳を明示した見積書を提出するように明示しなければなりません。そしてその際、社会保険の加入に必要な法定福利費については、提出された見積書を尊重し、各々の対等な立場における合意に基づいて請負金額に適切に反映することも必要です。
仮に、元請負人がこれを尊重せず、法定福利費相当額を一方的に削減する、労務費そのものや請負金額を構成する材料費、労務費、その他経費等で減額調整を行うなど、実質的に法定福利費相当額を賄うことができない金額で建設工事の請負契約を締結し、その結果「通常必要と認められる原価」に満たない金額となる場合には、建設業法第19条の3の不当に低い請負代金の禁止に違反するおそれがあるので注意が必要です。
3.最後に
この「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」は、社会保険の加入状況や未加入業者に対する対策の取組と成果など、建設業界全体の状況を踏まえて作られています。そのためガイドラインの見直しや改訂もされますので、定期的にご確認いただければと思います。
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行政書士法人名南経営(愛知県名古屋市)の所属行政書士。建設業許可担当。高度な法的知識、行政との綿密な調整が求められる一般的に難易度の高いと言われる許認可申請の対応を得意としている。建設業者からの信頼も厚く、建設業者の顧問や、建設業者の社内研修も多数対応している。