令和2年10月の建設業法の改正に伴い「建設業法令遵守ガイドライン」も改訂されました。改訂された部分を中心に、建設業法令遵守のために注意すべき事項を見ていきます。
Case1.下請工事に関し、書面による契約を行わなかった。
Case2.下請工事に関し、契約書に記載すべき事項を記載していない契約書面を交付した。
Case3.元請負人からの指示に従い、下請負人が書面による請負契約の締結前に工事に着手し、工事終了後に契約書面を相互交付した。
Case1.、Case2.、Case3.いずれの場合も、建設業法第19条第1項に違反します。
建設工事の請負契約の内容
第十九条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
一 工事内容
二 請負代金の額
三 工事着手の時期及び工事完成の時期
四 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
五 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
六 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
七 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
八 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
九 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
十 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
十一 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
十二 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
十三 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
十四 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
十五 契約に関する紛争の解決方法
十六 その他国土交通省令で定める事項
(以下、省略)
建設業法第19条は、契約締結に関するルールが規定されています。その内、第1項は当初契約のルールについて明確に規定されており、この第1項の一文はとても重要です。
【ルール1】契約は下請工事の着工前に書面で行う
民法では、請負契約を書面で行うというルールはありません。当事者の合意があれば、契約は成立します。しかし建設業法では、「書面契約」を義務付けています。書面契約とする理由は、契約当事者間の紛争・トラブル防止と契約内容の明確性・正確性を担保することにあります。明確に書面に記してあれば、後から見返しても契約当初と認識が変わってしまうという恐れは無くなります。
建設業法第19条第1項には契約締結のタイミングについて規定されていません。しかし、書面契約を義務付けている理由を考えても、契約内容について双方が合意しない限り着工することは無いと思います。そのため着工時には契約内容が固まっているということになるので、着工前に契約締結をすること自体に困難は無いと思います。軽微な工事や、急を要する工事の際には、契約を後から締結するという話を耳にすることもありますが、事後契約ではトラブルのもとになりかねません。事前の契約締結を遵守しなければなりません。
【ルール2】契約書面には建設業法で定める一定の事項を記載することが必要
記載すべき事項とは、建設業法第19条第1項に記載されている15項目です。(「その他の事項」は除いています。)その中でも、「工事内容」については注意が必要です。下請負人の施工範囲や施工条件等が明確になっていることが必要なため、一式工事という曖昧な記載ではなく、具体的に記載するようにします。
【ルール3】契約方法は一定の要件を満たすことが必要
書面で契約をすることはルール1でお伝えしましたが、書面契約といっても書面になっていれば良いというものでもありません。「署名又は記名押印をして、相互交付」と定められているように、契約方法も規定されています。
方法は4パターンです。
1.契約書による方法
2.基本契約書+注文書・注文請書による方法
3.注文書・注文請書による方法
4.電子契約による方法
1.や3.の方法は良く利用されている方法です。2.の基本契約書を用いる場合は、継続的な取引関係のある相手方と契約締結をする場合に用いられる方法です。基本契約書には変更が少ない事項を記載し、工事ごとに異なるような個別的・具体的な事項は注文書・注文請書に記載して、都度、交換を行います。4.の電子契約は印紙税の節約のために利用する業者が増えてきました。ただし、建設業法上認められているシステムを用いた電子契約でなければならず、大手ゼネコンとの契約では見かけることが増えましたが、まだまだ電子契約の普及率は低いと感じています。
(建設工事の請負契約の原則)
第十八条 建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従つて誠実にこれを履行しなければならない。
もう一つ、契約に関する規定を紹介します。建設業法第18条は、片務的な内容の契約とならないように、下請業者を保護する規定となっています。
「片務的な内容の契約」とは、元請業者が下請業者に一方的な義務を課したり、過大な負担を課すような契約です。元請業者と下請業者に、立場の差が生じている状態です。そのような片務的な関係性にならないよう、元請業者には対等な立場をとることや適切な対応をするようにします。
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行政書士法人名南経営(愛知県名古屋市)の所属行政書士。建設業者向けの研修や行政の立入検査への対応、建設業者のM&Aに伴う建設業法・建設業許可デューデリジェンスなど、建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としている。