令和4年7月27日から令和4年10月24日の間に、建設業者14,000業者を対象に実施された令和4年度下請取引等実態調査の結果が公表されました。
実施の概要
■調査対象業者:14,000業者(大臣許可1,750業者、知事許可12,250業者)
■調査方法:郵送による書面調査(令和4年7月27日~令和4年10月24日)
■調査対象期間:令和3年7月1日~令和4年6月30日における取引
■調査内容:
・元請負人と下請負人の間及び発注者(施主)と元請負人の間の取引の実態等
・見積方法(法定福利費、労務費、工期)の状況
・価格転嫁や工期設定の状況
・約束手形の期間短縮や電子化の状況
・技能労働者への賃金支払状況 等
■回収業者数:11,079業者(回収率79.1%)
なお「令和4年度下請取引等実態調査」については、こちらの記事にも詳しく書いております
»令和4年度下請取引等実態調査の実施
調査結果は次のとおりです。
調査結果
国土交通省「令和4年度下請取引等実態調査の結果概要」(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001582558.pdf)より抜粋しています。
(1)建設業法の遵守状況
○建設工事を下請負人に発注したことのある建設業者(9,261業者)のうち、建設業法に基づく指導を行う必要がないと認められる建設業者(適正回答業者)は、713業者(適正回答業者率:7.7%(昨年度:10.8%))であった。
○このうち、「下請代金の決定方法」(98.1%)、「契約締結時期」(98.5%)、「引渡し申出からの支払期間」(97.8%)、「支払手段」(93.2%)などの調査項目については概ね遵守されている状況であった。
○一方、「見積提示内容」(19.2%)、「契約方法」(62.5%)、「契約条項」(43.1%)、「手形の現金化等にかかるコスト負担の協議」(38.5%)など、適正回答率が低い調査項目も見受けられた。
(2)元請負人による下請負人へのしわ寄せの状況
元請負人から「不当なしわ寄せを受けたことがある」と回答した建設業者は1.4%(昨年度:1.2%)で、その内容のうち、主なものは、「指値による契約」(12.6%)、「追加・変更契約の締結を拒否」 (11.8%) 、「下請代金の不払い」(11.8%)、「工事着手後に契約」(10.9%)だった。
(3)発注者(施主)による元請負人へのしわ寄せの状況
発注者から「不当なしわ寄せを受けたことがある」と回答した建設業者は1.3%(昨年度:0.6%)で、その内容で主なものは、「発注者側の設計図面不備・不明確、設計積算ミス」(16.3%) 、「発注者による理不尽な要求・地位の不当利用」(15.0%)、 「追加・変更契約の締結を拒否」(13.0%) 、 「請負代金の不払い」(7.3%)だった。
(4)法定福利費・労務費の内訳を明示した見積書の活用状況
下請負人に対し、法定福利費の内訳を明示した見積書の交付を働きかけている元請負人は69.3%、労務費の内訳を明示した見積書の交付を働きかけている元請負人は65.1%だった。また、元請負人に対し、法定福利費の内訳を明示した見積書を交付している下請負人は75.6%、労務費の内訳を明示した見積書を交付している下請負人は66.8%だった。
(5)工期について
下請負人から工期の変更交渉があった際に変更を認めている元請負人は90.3%だった。また、受注者の責によらない事由によって工事の完成が難しいと判断した場合、元請負人に対して工期の変更交渉を行ったことがある下請負人は82.1%で、うち施工するために通常必要と認められる工期に変更されたのは92.1%だった。
(6)請負代金の額について
下請負人から請負代金の額の変更交渉があった際に変更を認めている元請負人は94.4%だった。また、元請負人との契約書に価格等の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の定めがある下請負人は45.8%だった。さらに、請負代金の額の変更交渉を行ったことがある下請負人は52.4%で、うち変更が認められたのは86.0%だった。
(7)約束手形について
手形期間を60日(予定・検討中も含む)としている建設業者は76.8%で、一方、手形期間を60日以内とする予定がないと回答した理由としては、「特に理由はないが、現在の手形期間が慣例となっているため」48.1%が最も多くなった。
(8)技能労働者への賃金支払状況
賃金水準を引き上げた、あるいは引き上げる予定があると回答した建設業者は84.2%(昨年度:82.8%)だった。賃金水準を引き上げた理由として最も多かったのは、「周りの実勢価格が上がっており、引き上げなければ必要な労働者が確保できないため」45.3%だった。一方、引き上げないと回答した理由としては、「経営の先行きが不透明で引き上げに踏み切れない」43.1%が最も多くなった。
調査後の措置
建設業法に基づく指導を行う必要があると認められた建設業者に対して指導票が送付されます。指導票は、是正措置を講じるよう指導する内容となっています。また、調査結果に基づき、必要に応じて、許可行政庁において立入検査等が実施されるため、適正な回答が出来ていない建設業者様は立入検査等に備えておく必要があります。さらに、立入検査の対象として、未回答業者やしわ寄せを行ったとされる元請負人も選定され、下請取引の実態が確認されるとのことです。
下請取引実態調査は、毎年20%程度回答をしていない建設業者がいます。建設業法違反の実態を知られたくないから回答をしていないのかもしれませんが、上述のとおり、未回答業者はそれだけで立入検査の対象となってしまう恐れがあります。事実を隠さず、調査にはしっかり事実について回答をしたうえで、今後の建設業法遵守を検討していくのが正攻法です。


行政書士法人名南経営(愛知県名古屋市)の所属行政書士。建設業許可担当。建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としており、建設業者の社内研修はもちろんのこと、建設業者の安全協力会や、各地の行政書士会からも依頼を受け、建設業法に関する研修を行っている。