国土交通省では、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律に基づき、国土交通省直轄工事を対象に「公共工事の施工体制の全国一斉点検」を実施しています。令和4年度は10月から12月に稼働している 561 件の直轄工事を対象に点検が行われ、13日にその結果が公表されましたので、ご紹介したいと思います。
目次
公共工事の施工体制の全国一斉点検とは?
①点検の目的
建設業法では施工体制台帳及び施工体系図の作成等が義務づけられていたり、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律では適正な施工体制の確保がより一層求められていることから、国土交通省では、施工体制の点検要領等を定め、各工事を担当する監督職員によって日頃から施工体制の点検を行っています。また、点検をより一層徹底するために、平成14年度から、監督職員以外の職員による「施工体制に関する全国一斉点検」を実施しています。
②点検期間
令和4年度は、10月から12月を全国一斉点検期間として、抜き打ちで点検が実施されました。
③対象工事
請負金額が3,500万円以上の工事(建築工事においては、7,000万円以上の工事)。平成28年5月31日以前に契約を締結した工事においてはそれぞれ2,500万円以上で稼働中の工事(建築工事においては5,000 万円)が対象となりました。
特に低入札価格調査制度調査対象工事及びこれに準じて重点的な監督業務を実施する工事「低入札工事等」に重点をおいて点検が行われています。
(出典:国土交通省「公共工事の施工体制の点検結果を公表します!~令和4年度公共工事の施工体制の全国一斉点検の結果~」https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001601637.pdf)
④点検内容
建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律に定める監理技術者等の資格及び配置、施工体制台帳の備え付け状況等の項目と下請契約に関する項目が、元請業者に対する点検項目とされています。また、元請業者が下請業者に対して「不当に低い下請負代金での契約」や「不当な使用資材等の購入強制」等を行っていないかを確認するため、請負額3,500万円以上(平成28年5月31日以前に契約を締結した工事においては2,500万円以上)の下請業者の主任技術者にヒアリングが実施されました。
⑤点検方法
主任監督員の立会のもと、抜き打ちで各工事現場に立ち入られ、受注者には関係資料の提示等が求められました。
点検結果の総括
- 全体で 561 件の工事を点検(調査開始時点での稼働中工事 7,083 件の約 7.9%)。(R3:全体で 612 件の工事(10 月 1 日時点での稼働中工事 7,039 件の約 8.7%))
このうち低入札価格調査制度調査対象工事(以下、「低入札工事」という。)は点検時に現場施工をしている全工事 23 件で点検を実施。また、重点的な監督業務を実施する工事についても優先的に点検を実施し、3 件で点検を実施。(低入札工事と重点的な監督業務を実施する工事の合計が点検件数 561 件の約 4.6%)- 点検を実施した結果は概ね良好であったが、建設業法違反に該当する工事が 4 件あった。(以下、建設業法違反に関する点検項目)
- 施工体制台帳に添付すべき書類のうち発注者との契約書の写し、及び監理技術者の雇用関係を証明できるものの写し(健康保険証等の写し)が不足していた。
- 「現場内かつ公衆の見やすい場所」に掲示されているが、施工体系図が進行中の工事に合っていない(変更されていない)状況であった。
- 下請負人の主任技術者の専任すべき工事を専任していないものがあった。
- 違反があった4件の工事については、受注者に改善指示を実施し適切に処理している。
(出典:国土交通省「公共工事の施工体制の点検結果を公表します!~令和4年度公共工事の施工体制の全国一斉点検の結果~」https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001601637.pdf)
点検項目別の点検概要
点検(1)主任技術者・監理技術者に関する点検
- 監理技術者資格者証の提示、JV の場合の配置技術者の資格要件など監理技術者や主任技術者、専門技術者の設置において、明らかな建設業法違反で許可部局への通知が必要な工事は該当がなかった。
(出典:国土交通省「公共工事の施工体制の点検結果を公表します!~令和4年度公共工事の施工体制の全国一斉点検の結果~」https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001601637.pdf)
点検(2)下請負人との契約や支払いに関する点検
- 下請負人の建設業許可においては、点検した全ての対象工事で適正であった。
- 当初契約時での下請契約に関する点検においては、指導事項 31 件(5.6%)あった。
このうち、指導事項があった点検項目は、一部の下請契約で契約書等に契約工種、工事数量が記載されているが、建設機械費又は材料費が含まれているかどうかが明記されていない工事が 24 件(4.3%)、一部の下請契約で契約書等に建設機械費又は材料費が含まれているか否かが明記されているが、契約工種、工事数量が明記されていない部分がある工事が 5 件(0.9%)、全て又は一部の下請契約で契約工種・工事数量が明記されていない部分があり、機械費や材料費が含まれているか否かも明記されていない工事が 2 件(0.4%)あった。- 変更契約時での下請契約に関する点検においても、指導事項があった。
追加工事や内容変更があった場合、契約書等により相互に署名又は記名押印している変更契約書が確認できない工事が、3 件(0.5%)あった。- 下請代金の適切な支払いについては、概ね下請契約書に請負代金の支払い方法が記載され、その内訳が労務費相当分を現金払いとし、残りが手形期間 120 日以内となっていたが、一部の工事 2 件(0.4%)で指導事項に該当する不備があった。
- 一括下請負(丸投げ)の禁止については、点検した全ての工事で元請または下請が果たすべき役割が果たされていることが確認できた。
(出典:国土交通省「公共工事の施工体制の点検結果を公表します!~令和4年度公共工事の施工体制の全国一斉点検の結果~」https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001601637.pdf)
点検(3)施工体制台帳に関する点検
- 施工体制台帳が作成されているものの、施工台帳に添付すべき書類に関する事項については、「発注者との契約書の写し」、及び「監理技術者の雇用関係を証明できるものの写し(健康保険証等の写し)」の不備による建設業法違反の工事があった。
- また、施工体系図の掲示においても、「現場内かつ公衆の見やすい場所」に掲示されているものの、施工体系図が進行中の工事に合っていないことでの不備による建設業法違反の工事があった。
- 上記の建設業法違反の工事はいずれも発注者の指導のもと、早急に改善された。
- 建設業許可票の掲示については、点検した全ての工事において、発注者から直接請け負った工事であり、元請負人の建設業許可の掲示が確認できた。
(出典:国土交通省「公共工事の施工体制の点検結果を公表します!~令和4年度公共工事の施工体制の全国一斉点検の結果~」https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001601637.pdf)
点検(4)下請負人への点検
- 下請負人の主任技術者の資格では、点検した全ての工事で適正な資格を保有した技術者が専任されていた。
- 下請負人の主任技術者の専任では、専任すべき工事で専任していないものがあり、建設業法違反に該当した。なお、発注者の指導のもと、早急に改善された。
- 契約に関する元請負人と下請負人の取引の適正化では、下請負人が把握されている全ての工事で注文者が自己の取引上、地位を不当に利用していないことが確認できた。
- 資機材の取引に関する契約においても、建設業法違反に該当する工事はなかった。
(出典:国土交通省「公共工事の施工体制の点検結果を公表します!~令和4年度公共工事の施工体制の全国一斉点検の結果~」https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001601637.pdf)
まとめ
点検は公共工事に関するものですが、建設業法の遵守は民間工事においても変わりはありません。そのため、上記の検査結果はどの建設業者でも関係してくるものです。特に「点検項目別の点検概要」は立入検査においてもよくチェックされる部分になりますので、お読みいただき、建設業法令遵守に役立てていただければと思います。


建設業に参入する上場企業の建設業許可取得や大企業のグループ内の建設業許可維持のための顧問などの支援をしている。建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としており、建設業者の社内研修や建設業法令遵守のコンサルティングも行っている。