お客様からご相談をいただく内容として最も多いといっても過言ではないものが「経営業務の管理責任者」に関するご相談です。
当社のお客様には、経営業務の管理責任者の将来的な候補者を用意しておくために、常にいろいろな策を検討されている方が多くいらっしゃいます。その中でも近年特にご相談いただくのが、令和2年10月1日の改正建設業法施行により新しく出来た基準の「建設業法施行規則第7条第号ロ」を活用したいという内容です。
建設業法施行規則第7条第1号ロとは?
建設業法施行規則第7条第1号ロの規定を見てみましょう。
(法第七条第一号の基準)第七条 法第七条第一号の国土交通省令で定める基準は、次のとおりとする。
~中略~
ロ 常勤役員等のうち一人が次のいずれかに該当する者であつて、かつ、財務管理の業務経験(許可を受けている建設業者にあつては当該建設業者、許可を受けようとする建設業を営む者にあつては当該建設業を営む者における五年以上の建設業の業務経験に限る。以下このロにおいて同じ。)を有する者、労務管理の業務経験を有する者及び業務運営の業務経験を有する者を当該常勤役員等を直接に補佐する者としてそれぞれ置くものであること。
(1) 建設業に関し、二年以上役員等としての経験を有し、かつ、五年以上役員等又は役員等に次ぐ職制上の地位にある者(財務管理、労務管理又は業務運営の業務を担当するものに限る。)としての経験を有する者
(2) 五年以上役員等としての経験を有し、かつ、建設業に関し、二年以上役員等としての経験を有する者
~以下省略~
これが令和2年10月1日施行の改正建設業法の施行によって新設された基準の「ロ」です。改正建設業法については、一時期「経営業務の管理責任者」要件が無くなるという話題も出ていましたので、経営業務の管理責任者の制度が「緩和」されたという印象をお持ちの方が多いですが、正しくは「規制の合理化」です。これを活用したいと考えていらっしゃるお客様が多いですが、実際はそう簡単ではありません。まず、この基準が何を目的に作られたかを押さえておくと良いと思います。
経営業務の管理責任者に関する規制の合理化の目的
経営業務の管理責任者に関する規制の合理化の目的は「持続可能な事業環境の確保」です。この目的のために新しい基準である「ロ」が作られました。つまり、建設業者が建設業の営業を持続するため(建設業許可を持続するため)に作られた基準であるということがいえます。
ロは、建設業許可の新規申請の際には、使いづらい基準となっています。新規申請のときに活用する基準ではなく、建設業許可を持続するために活用する基準と考えていただくと良いと思います。
ロは、なぜ使いづらいか?
建設業法施行規則第7条第1号ロの基準がなぜ使いづらいのか見ていきたいと思います。使いづらい原因としては、大きく3点あります。
①最大で4名必要
従来の経営業務の管理責任者と異なり、ロ該当の場合、常勤役員個人(1名)ではなく、組織として経営業務の管理責任者要件を満たすというイメージのものになります。具体的には、一定の要件を満たす常勤役員等1名に加え、「常勤役員等を直接に補佐する者」として財務管理・労務管理・運営業務に関する経験を持つ者をそれぞれ置かなければなりません(全ての経験を1名で兼ねることは可能)。
つまり、「常勤役員等」+「常勤役員等を直接に補佐する者」で、少なくとも2名、最大で4名必要ということです。
(出典:国土交通省「新・担い手三法について~建設業法、入契法、品確法の一体的改正について~」https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001367723.pdf)
②直接に補佐する者になろうとする建設業者での経験が必要
「常勤役員等を直接に補佐する者」は、財務管理・労務管理・業務運営に関する経験が必要です。具体的には、「財務管理の業務経験」とは、建設工事を施工するにあたって必要な資金の調達や施工中の資金繰りの管理、下請業者への代金の支払いなどに関する業務経験、「労務管理の業務経験」とは、社内や工事現場における勤怠の管理や社会保険関係の手続きに関する業務経験、「業務運営の経験」とは、会社の経営方針や運営方針の策定、実施に関する業務経験をいいます。
実は、これらの経験は、どこで積んだ経験でも良いというわけではありません。申請を行っている建設業者又は建設業を営む者における経験、つまり、直接補佐する者になろうとする建設業者での経験に限られています。他社で積んだ経験を活用して「役員等を直接に補佐する者」になることはできません。
③直接に補佐するため、組織の変更が必要になる場合がある
「直接に補佐する」とは、組織体系上及び実態上常勤役員等との間に他の者を介在させることなく、常勤役員等から直接指揮命令を受け業務を常勤で行うことをいいます。つまり、「常勤役員等を直接に補佐する者」は常勤役員等の直属の部下に当たる者でなければなりません。
常勤役員等となる者の下に新しい部門を設置して、そこに「常勤役員等を直接に補佐する者」を集約するなど、社内の組織の変更が必要になる場合があります。なお、「直接に補佐する」状況であるか否かは、組織図等の書類により確認することになります。
まとめ
近年ご相談の多い建設業法施行規則第7条第1号ロについて解説をさせていただきました。
解説のとおり、非常に使いづらい基準となっています。この基準の活用を期待して経営業務の管理責任者の後継候補の準備を進めることは、交代をする際に基準の活用が認められず、建設業許可を維持できないリスクがありますので、活用をご検討の際には、上記の①~③についてよくご確認のうえ慎重にご検討をお願いいたします。後継候補の準備については、建設業法施行規則第7条第1号イ⑴の基準を満たす者を確保しておくことが確実です。


行政書士法人名南経営(愛知県名古屋市)の所属行政書士。建設業許可担当。建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としており、建設業者の社内研修はもちろんのこと、建設業者の安全協力会や、各地の行政書士会からも依頼を受け、建設業法に関する研修を行っている。