建設業者に関係する建設業法等の法令に関する情報を紹介

  1. 用語解説
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建設業者の下請代金の支払ルール

元請負人から下請負人に対して、下請代金が適正に支払われなければ、下請負人の経営が不安定になるばかりでなく、下請負人が必要な工程を省略したり、建設工事の材料の質を落とすなどの手抜き工事を誘発する恐れもあります。そのため建設業法には、建設業者の下請代金の支払ルールが規定されています。支払ルールには主に次の8つがあります。

(1)現金払い
(2)前払金
(3)有償支給の資材代金の回収時期
(4)検査・引渡し
(5)下請代金の支払期日
(6)特定建設業者に係る下請代金の支払期日の特例
(7)割引困難な手形による支払の禁止
(8)赤伝処理

⑴現金払い

▼建設業法
(下請代金の支払)
第二十四条の三
(中略)
2 前項の場合において、元請負人は、同項に規定する下請代金のうち労務費に相当する部分については、現金で支払うよう適切な配慮をしなければならない。
(以下省略)

建設業者の下請代金の支払は、できる限り現金で支払わなければなりません。
現金払と手形払を併用する場合は、支払代金に占める現金の比率を高めなければなりません。少なくとも労務費相当分(社会保険料の本人負担分を含む。)については現金払とするような支払条件を設定する必要があります。

また、中小企業庁及び公正取引委員会による「下請代金の支払手段について」において、次のとおり下請取引の適正化に努めるよう要請されています。「できる限り現金によること」「手形等の現金化に係る割引両党のコストを勘案して下請代金の額を協議すること」「手形のサイトは60日以内とすること」など元請負人が留意しなければならない事項が記載されています。

▼下請代金の支払手段について(令和3年3月31日 20210322 中庁第2号・公取企第25号)
(略)

親事業者による下請代金の支払については、以下によるものとする。
1 下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。
2 手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと。※
3 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。
4 前記1から3までの要請内容については、新型コロナウイルス感染症による現下の経済状況を踏まえつつ、おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること。
※ 割引料等のコストについては、実際に下請事業者が近時に割引をした場合の割引料等の実績等を聞くなどにより把握する方法が考えられる。

⑵前払金

▼建設業法
(下請代金の支払)
第二十四条の三
(中略)
3 元請負人は、前払金の支払を受けたときは、下請負人に対して、資材の購入、労働者の募集その他建設工事の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない。

注文者から前払金の支払を受けたときは、下請負人に対して、資材の購入、労働者の募集その他建設工事の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければなりません。
公共工事の場合は、発注者からの前払金は現金で支払われるため、元請負人は、下請負人に対して、相応する額を現金で前払いするよう配慮しなければなりません。

⑶有償支給の資材代金の回収時期

▼建設産業における精算システム合理化指針について
第4 適正な契約の締結
(2)代金支払等の適正化
(中略)
オ 建設工事に必要な資材をその建設工事の注文者自身から購入させる場合は、正当な理由がないのに、その建設工事の請負代金の支払期日前に、資材の代金を支払わせないこと。
(以下省略)

下請工事に必要な資材を元請負人が有償支給した場合は、正当な理由があるときを除き、その工事の下請代金の支払期日より前に、資材の代金を下請代金の額から控除したり、下請負人に支払わせてはなりません。このような行為があった場合は、不公正な取引方法となり、独占禁止法第19条違反となります。

この場合の「正当な理由」とは、下請負人が資材を他の工事に使用した場合や、転売してしまった場合などが該当します。

⑷検査・引渡し

▼建設業法
(検査及び引渡し)
第二十四条の四 元請負人は、下請負人からその請け負つた建設工事が完成した旨の通知を受けたときは、当該通知を受けた日から二十日以内で、かつ、できる限り短い期間内に、その完成を確認するための検査を完了しなければならない。
2 元請負人は、前項の検査によつて建設工事の完成を確認した後、下請負人が申し出たときは、直ちに、当該建設工事の目的物の引渡しを受けなければならない。ただし、下請契約において定められた工事完成の時期から二十日を経過した日以前の一定の日に引渡しを受ける旨の特約がされている場合には、この限りでない。

下請工事完成後、元請負人が検査を遅らせることは、下請代金の支払遅延の原因となります。また、下請負人に必要以上の保管責任や危険負担を負わせることになってしまうため、下請工事完成の通知を受けた日から20日以内に確認検査をしなければなりません。

そして、元請負人は、確認検査によって建設工事の完成を確認した後は、下請負人が申し出たときは、直ちに、下請工事の目的物の引渡しを受けなければなりません。ただし、下請契約において定められた工事完成の時期から20日を経過した日以前の一定の日に引渡しを受ける旨の特約がある場合はこの限りではありません。

なお、許可行政庁は、元請負人が正当な理由なく、下請負人の下請工事完成の通知を受けた日から20日以内に確認検査をしない場合や、下請負人が申し出たときから直ちに工事目的物の引渡しを受けない場合(特約がある場合を除く)は、独占禁止法第19条違反として、公正取引委員会に対して措置請求をすることができます。

この場合の「正当な理由」とは、「検査」においては、災害等不可抗力により検査が遅延する場合や、下請契約の当事者以外の第三者の検査を要するために、やむを得ず検査が遅延する場合などが該当し、「引渡し」においては、下請負人の責に帰すべき破損、汚損等が発生し、引渡しを受けられないことが明らかな場合などが該当します。

⑸下請代金の支払期日

▼建設業法
(下請代金の支払)
第二十四条の三 元請負人は、請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けたときは、当該支払の対象となつた建設工事を施工した下請負人に対して、当該元請負人が支払を受けた金額の出来形に対する割合及び当該下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない。
(以下省略)

元請負人は、注文者から請負代金の出来高払いまたは竣工払いを受けたときは、その支払いの対象となった工事を施工した下請負人に対して、相当する下請代金を1ヶ月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければなりません。

なお、許可行政庁は、元請負人が正当な理由なく、下請負人に対して1ヶ月以内に支払わない場合は、独占禁止法第19条違反として、公正取引委員会に対して措置請求をすることができます。この場合の「正当な理由」とは、不測の事態が発生し、支払が遅延することがやむを得ないと明らかに認められる理由がある場合などが該当します。

⑹特定建設業者に係る下請代金の支払期日の特例

▼建設業法
(特定建設業者の下請代金の支払期日等)
第二十四条の六 特定建設業者が注文者となつた下請契約(下請契約における請負人が特定建設業者又は資本金額が政令で定める金額以上の法人であるものを除く。以下この条において同じ。)における下請代金の支払期日は、第二十四条の四第二項の申出の日(同項ただし書の場合にあつては、その一定の日。以下この条において同じ。)から起算して五十日を経過する日以前において、かつ、できる限り短い期間内において定められなければならない。
(以下省略)

特定建設業者は、下請負人(特定建設業者または資本金4,000万円以上の法人を除く。)からの引渡しの申出日から起算して50日以内で、かつ、できる限り短い期間内において下請代金を支払わなければなりません。

そのため、特定建設業者による下請代金の支払期限は、「⑸下請代金の支払期日」のルールである注文者から出来高払又は竣工払を受けた日から1ヶ月を経過する日か、下請負人が引渡しの申出を行った日から起算して50日以内で定めた支払期日のいずれか早い期日となります。

なお、許可行政庁は、元請負人が正当な理由なく、下請負人の引渡しの申出日から50日以内に支払わない場合は、独占禁止法第19条違反として、公正取引委員会に対して措置請求をすることができます。この場合の「正当な理由」とは、不測の事態が発生し、支払が遅延することがやむを得ないと明らかに認められる理由がある場合などが該当します。

⑺割引困難な手形による支払の禁止

▼建設業法
(特定建設業者の下請代金の支払期日等)
第二十四条の六
(中略)
3 特定建設業者は、当該特定建設業者が注文者となつた下請契約に係る下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付してはならない。
(以下省略)

特定建設業者は、下請負人(特定建設業者または資本金4,000万円以上の法人を除く。)に対して、下請代金の支払を一般の金融機関による割引を受けることが困難と認められる手形により行ってはなりません。

元請負人が手形期間120日を超える長期手形を交付した場合は、割引を受けることが困難である手形の交付と認められる場合があります。なお、公正取引委員会及び中小企業庁が、令和6年を目途として、サイトが60日を超える手形等を下請法の割引困難な手形等に該当するおそれがあるものとして指導の対象とすることを前提に、下請法の運用の見直しを検討していることに留意する必要があります。

割引を受けられるかどうかは、振出人の信用、割引依頼人の信用、手形期間、割引依頼人の割引枠等により判断することとなります。

⑻赤伝処理

赤伝処理とは、元請負人が次のような費用等を下請負人への下請代金の支払時に差引く行為のことです。

    1. 一方的に提供・貸与した安全衛生保護具等の費用
    2. 下請代金の支払に関して発生する諸費用(下請代金の振り込み手数料等)
    3. 下請工事の施工に伴い、副次的に発生する建設副産物の運搬処理費用
    4. 1~3以外の諸費用(駐車場代、弁当ごみ等のごみ処理費用、安全協力会費、建設キャリアアップシステムのカードリーダー設置費用・現場利用料等)

赤伝処理を行うこと自体が直ちに建設業法上の問題となることはありませんが、赤伝処理を行うためには、その内容を契約書面に記載したり、見積条件として下請負人に対して具体的な内容を提示する必要があります。差引く根拠等について元請負人と下請負人双方の協議・合意が必要であることに、留意しなければなりません。

建設業者の下請代金の支払ルールに関する参考資料

  • 建設産業における生産システム合理化指針
  • 建設業法令遵守ガイドライン -元請負人と下請負人の関係に係る留意点-
  • 建設業の下請取引に関する不公正な取引方法の認定基準
  • 下請代金の支払手段について

 

     
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